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名古屋家庭裁判所 昭和47年(少ハ)14号 決定

少年 K・M(昭二七・三・一九生)

主文

1  少年を昭和四八年一月二一日から同年九月二〇日まで愛知少年院に継続して収容する。

2  千葉保護観察所長は、少年の就職およびその家族との意思の疎通に関する環境調整として、次の措置を行なうこと。

犯罪者予防更生法五二条に基づく環境調整措置を行なうとともに、担当保護司をして、在院中の少年との面接を相当回数行なわせること。

理由

1  (申請に至る経過)

少年は、昭和四七年一月二一日当庁で窃盗により特別少年院送致となり、同月二二日少年院法一一条一項但書による収容継続決定がなされ、昭和四八年一月二〇日その収容期間が満了となるものであるが、昭和四七年一二月二三日愛知少年院長より本件収容継続の申請がなされた。

2  (申請理由の要旨)

申請理由の要旨は、少年は従順で素直な側面を持つが、主導性に乏しく、自主性に欠け、内的統制力が脆弱で、興味本位で無計画、無統制の行動に走り易い性格を持ち、入院後三ヵ月目に同僚の食物中に針を混入するという反則があり、その後の指導によつて格別の規律違反はなくなつたが、自己批判力ないし自己吟味力の脆弱さ、規範意識の稀薄さがみられること、未だ最高段階に進級していないこと、出院後の帰住先として予定する家庭環境の調整にも相当の期間を要すること、出院後相当期間の保護観察による援助が必要であること等の諸点により、なお八ヵ月間の収容継続を必要とする、ということである。

3  (当裁判所の判断)

(1)  少年は、昭和四五年一二月二五日窃盗により中等少年院送致となつたが、その在院中二回にわたつて逃走し、放浪生活中に同種の自動車窃盗をくり返し、前記のとおり特別少年院送致となり、愛知少年院に収容されたものである。同少年院においては、昭和四七年四月頃同僚とのいざこざから、その食物中に針を混入するという嫌がらせを行ない、謹慎一〇日間、減点四〇点の処分を受けたが、その後は指導上の配慮がなされたためか格別の反則もなく、二回の無事故賞を受け、同年一一月一日には一級下に進級している。しかし、少年は、現在なお出院後の職業についての志望が一定せず、明確な職業観をもつておらず、また、自己の性格や生活態度に対する内省も表面的なものに止まつて具体性がなく、院内生活の態度にも耐性の不十分さが種々見受けられ、既に二〇歳に達した者としては社会性の未熟さが顕著である。

(2)  特別少年院送致当時指摘された少年の資質ないし性格上の問題点は、一年余の矯正教育によつて根本的に改善され得るものとは期待し難く、結局一般社会生活の中で長期間にわたつて社会性が養われて行くべきものであるが、その自立更生の可能性をある程度保障するためには、少くとも施設内処遇により社会復帰後の勤労生活への定着に対する少年の自覚を深めておかなければならず、前記のような少年の行動傾向および現在の生活態度等に照らすと、現状のまま出院させれば容易に生活の不安定から再犯に陥るおそれがあると認められ、少くとも収容期間満了後更に四ヵ月間の施設内の矯正教育と社会復帰の準備を要するとの少年院当局の要請はやむを得ないところであると認められる。また、少年の帰住先として両親のもとが予定されているのであるが、両親は少年を引取る意思を有するものの、知的能力および経済的能力からみて著しく保護能力が劣り、しかも遠隔地に居住するため在院中少年との面接さえ一度もできず、文通による意思疎通も全く不十分な状態であり、今後一層強力に家庭環境の調整を進めるとともに、出院後も相当期間専門機関による少年および両親に対する指導が必要であると認められる。

(3)  そこで、少年の収容を継続するときは、順調に進めば昭和四八年三月一日に一級上に進級し、同年五月末には仮退院の見通しであることおよびその後の保護観察の期間をも考慮して、前記収容期間満了の翌日である昭和四八年一月二一日から同年九月二〇日まで少年の収容を継続するのが相当であると認める。

4  (環境調整措置について)

前記のとおり少年の帰住先は遠隔地であるにもかかわらず、帰住先を管轄する少年院への移送がなされず、また両親の保護能力の乏しさもあつて、少年と両親との意思疎通および家庭の受入れ体制等についての環境調整が必ずしも十分に図られていないうえ、少年は出院後の就職について明確な見通しを持たないこと等の諸点に照らすと、前記の趣旨の下で少年の収容を継続しても、今後就職関係および家庭の受入れ体制について犯罪者予防更生法五二条に基づき相当強力な環境調整の措置が行なわれ、あわせて仮退院に先立つて保護観察担当の保護司と少年との間の信頼関係が樹立され、仮退院後の保護観察への連繋が円滑に行なわれなければ、出院後の少年の生活を安定させることは困難が予想される。そこで、少年の帰住先を管轄する千葉保護観察所長から担当保護司に対し、在院中の少年のために、面接に要する旅費その他必要経費の支給等の措置を講じたうえ、相当回数の面接をすべく指導することが是非とも必要である。

5  よつて、少年の収容継続につき少年院法一一条二項、四項を、環境調整措置につき少年法二四条二項、少年審判規則三九条、五五条をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 多田元)

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